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『銀行の決済手数料サブスク化をする』と日銀が言っている件

面白さはあるが、実現性は不透明

昨日、日本銀行が決済レポートにおいて、銀行の決済手数料をサブスクリプション化することを提案した資料を公開しました。
https://www.boj.or.jp/research/brp/psr/data/psrb200210.pdf

要旨は下記の通りです。
・日本は、銀行の決済サービスを利用する都度課金する個別課金システムになっている。個別課金システムは銀行口座維持手数料がかからないため、多くの人が口座を持ちやすい
・一方で、決済サービスの手数料は高めに設定されており、決済サービスの利用が十分に広まらず、社会として便益を得られていない
・海外では、口座維持手数料を払うことで何度でも送金できる定額課金制や、基本使用料を取ったうえで利用頻度によって手数料を変動させる二部課金制が取られている。定額で費用が発生するが、これによって決済サービスの利用が増加し、決済サービスを社会全体で享受できる
・口座維持手数料を取ることを考えている銀行が多いが、急げば予想以上に口座解約が発生する可能性があるので慎重に

おおむね同意するのですが、気になる点を記載しておきます。

既に個人間送金サービスは日本国内に存在するが…

まず、気になったのが「決済手数料が無料になる」ことで「決済サービスの利用が増加」という記載。確かに、決済手数料(主に振込手数料)が無料になれば決済サービスの利用が増加しそうです。
この記載はアメリカで現在流行している個人間送金サービス(P2Pサービス)業者間の競争を意識して書かれているようです。

『Venmo』vs『Zelle』

jp.techcrunch.com
アメリカでは2000年代末に個人間での送金が無料で行われるサービス『Venmo』がリリースされ、その後Venmo に顧客を奪われることを危惧した米大手金融機関が連合で『Zelle』という同様の個人間送金サービスがリリースされたという経緯があります。
この『Venmo』の流行が日本でも起これば、日本の銀行も同様に収益悪化が見込まれます。

LINE PayやPayPayでの個人間送金は出来るものの、普及している印象はない

一方で日本では、LINE PayやPayPayにおいて個人間送金サービスが提供されており、送金に関しては手数料無料になっていますが、『QRコードを使う』キャンペーンが何度も行われるのに対して、『個人間送金をする』キャンペーンがあまり行われていないのを見ると、QRコード決済業者は個人間送金はそこまで普及してないように見えます。
そのため、銀行において、決済手数料を下げる→振込が増える という構図がアメリカ同様日本でも進むのかどうかは不透明だと考えます。

『全銀システム』との利権の兼ね合いが面倒そう

日本の銀行は、他の銀行に振込を行う際に、『全銀システム』という金融機関同士をつなぐシステムを介して振込を行い、銀行はそれに対して手数料を支払います。これが銀行が振込手数料を取る理由です。

仮に、ある金融機関が振込手数料を無料化したとして、全銀システム側に支払う手数料を従来通り支払うのであれば、決済件数が増えることで金融機関の支払い負担は増大します。そこで口座維持手数料を取得することで支払い負担分をカバーするということになりますが、口座維持手数料が高くなった場合どうなるのでしょうか?

全銀システム側で負担することにメリットがあるようにも見えないため、結局銀行が負担し、苦しくなるだけのようにも見えなくはないですね。