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2019年のM-1がナイツ塙の「言い訳」通りになった話

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ナイツ塙の恐るべき観察力

2019年のM-1が12月22日に行われました。決勝進出組10組のうち7組が初出場ということで、今まで見たことが無い、新しい笑いを楽しめたと感じております。

ところで、M-1の舞台で漫才を行う漫才師以外に、M-1に出ることを心から楽しんでいる漫才師がいます。ナイツの塙さんです。

 ナイツは2008年M-1で決勝に出場して以来3年連続決勝に進みましたが1位を取ることができなかったコンビであったものの、2018年にナイツ塙さんが8年ぶりに「審査員」という形でM-1の舞台に戻ってきました。


その気持ちを自らの書籍「言い訳」でこのように記載されております。

僕は10年分、歳をとりましたが、「初恋の人」は今も変わらずキラキラとしていました。

 それくらい、M-1が好きな塙さんですが、その書籍「言い訳」において記載されていた漫才に対する視点・分析の多くが2019年のM-1で見られたもので驚いたため、それを記事にしてみようと思い、記載しています。

 

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

  • 作者:塙 宣之
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: 新書
 

 

漫才に対する分析が凄い

書籍「言い訳」で塙さんは漫才に関する様々な内容を分析していますが、特に漫才師に対する分析が精緻であり驚きました。

 どういうことかと言うと、M-1で出てくる審査員のコメントが、どれも「言い訳」の中に記載されていることばかりなのです。それくらい、分析力が優れいている。漫才師が考えている視点というものがどういうものなのか、文章で示されていて『ああ、この話も本でしていたなぁ』という、ある種感動的なものでした。

 それでは、2019年のM-1審査員のコメントと、「言い訳」の内容がリンクしている場所を示していきたいと思います。

松本人志「ツッコミが笑いながらやっているのが好きではない」

2019年M-1トップバッターのニューヨークの漫才に対して、松本人志が「82点」という点数をを示した後に放った発言です。一見すると松本人志の好みに左右されたニューヨークがかわいそうなように見えますが、ナイツ塙さんは「言い訳」でこのように分析します。

 

…自信がない人ほど、ネタ中に、思わず笑ってしまいましたみたいな笑い方をするものです。…この世界では、それを「誘い笑い」と呼んで、年配の人ほど嫌います。…やりすぎると自作自演っぽくなり、あざとい印象を与えかねません。

 

松本人志には、ニューヨークの漫才がわざとらしく笑いを誘っているように見えたのかもしれません。 

中川家礼二「素の部分の面白さが見えない、作り込んだやつもいいが、もっと人間味を出してもらえたら」

中川家礼二がインディアンズに対する講評の際に話した言葉です。M-1の決勝に立つくらいなので、作り込まれたネタで挑むのが当然だと思うわけですが、それに対して「言い訳」ではこのように書かれています。

 

中川家は二人とも、ボケとツッコミのタイミングが見事すぎるというか、いかにも練習してきました、みたいなコンビに対する評価が低いんですよね。

 

 中川家の漫才は、大阪のオッサン・オバハンの会話の延長線のような安心感を感じます。それはガチガチに作り込まれているのではなく、どこか余裕があって、でも関西ではどこでも見られる日常風景で親近感が湧いてくる、といったものです。インディアンズの漫才は、中川家の漫才に比べて堅苦しい印象があったかもしれませんね。

 上沼恵美子「新しい、なすび好き」

最終10組目のぺこぱに対して上沼恵美子が放った言葉です。上沼恵美子以外の審査員も多くが同じ話をしていました。ナイツ塙さんは「言い訳」の中でこのように話しています。

 

「経験」よりも「新しさ」。そうなんですよ。…経験には目を瞑ってもらう代わりに、出場者は、新しいものを見せなければならない。新しいものへの飢餓感は、M-1のDNAに組み込まれた意思のようなものなのだと思います。

 

M-1のこれまでの優勝者は初出場で優勝したコンビが多いです。これは「新しさ」が非常に重視されている証明でもありますね。ナイツも2008年の出場から毎年順位を落としていましたし、和牛も最後まで優勝できませんでした。新しさを求められる故に、毎年出場するコンビは毎年新しさを作り出さなければならず大変苦しいからでしょう。

 「言い訳」は、M-1に出場する側にとっても、見る側にとってもバイブルになりえる

書籍「言い訳」について、今年のM-1とリンクさせながら書いてきましたが、このように思うわけです。

M-1に出場する側は、M-1審査員のリアルな視点が見えるので、「言い訳」は漫才を行う際に参考にすることが出来る

M-1を見る側は、「言い訳」を読めば審査員が考える漫才の視点を共有することが出来るので、新しいM-1の楽しみ方が出来る

というように、M-1に出場する人にとっても、M-1を見る側にとっても、バイブルになりえる書籍だと、心から感じました。